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絶対筋力と相対筋力:体重比で考える強さの指標
BIOMECHANICS 12 minLEVEL: 初級

絶対筋力と相対筋力:体重比で考える強さの指標

体重無差別のパワーと、自重をコントロールするパワーの違いと評価

SA
STRENGTH ARTS LAB
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「あの人は強い」という言葉を聞いた時、あなたは何を想像しますか?ベンチプレスで200kgを挙げる巨漢のパワーリフターでしょうか。それとも、片手懸垂を軽々とこなし、体操の吊り輪で十字懸垂(アイアンクロス)を決める小柄なアスリートでしょうか。実は、この2人はどちらも極めて「強い」のですが、強さの「種類」が根本的に異なります。筋力を正しく評価し、自分の目的に合ったトレーニングを行うためには、「絶対筋力(Absolute Strength)」と「相対筋力(Relative Strength)」という2つの概念を明確に理解する必要があります。

01絶対筋力(Absolute Strength)の概念

絶対筋力とは、体重や体格に関係なく、その人が発揮できる「最大筋力」の絶対値のことです。バーベルに何kgのプレートがついているか、ただその数値だけがすべてを決定します。

パワーリフティングの無差別級、ストロングマンコンテスト、アメリカンフットボールのラインマン、ハンマー投げなど、とにかく「外部にある重い物体」を動かす、あるいは「相手を力でねじ伏せる」ことが求められる競技においては、この絶対筋力が唯一無二の正義となります。

絶対筋力を高めるための最もシンプルで確実な方法は「体重を増やすこと」です。脂肪であれ筋肉であれ、自重が増加すれば身体の重心は安定し、関節にかかるテコ(モーメントアーム)も有利に働きます。そのため、絶対筋力を追求するアスリートは、減量による筋力低下を極端に嫌い、とにかくたくさん食べ、巨大な身体を作り上げます。

02相対筋力(Relative Strength)の概念

相対筋力とは、「体重1kgあたりどれくらいの力を発揮できるか」という指標です。体重比での強さと言い換えることもできます。

体操競技、ロッククライミング、パルクール、短距離走、そして格闘技の階級制スポーツなど、「自分の身体(自重)」をいかに速く、高く、巧みにコントロールするかが問われる競技においては、この相対筋力がパフォーマンスの全てを決定づけます。

相対筋力を高めるためには、単に力が強くなるだけでは不十分です。体重が増えてしまえば、分母が大きくなるため相対筋力は低下してしまうからです。体脂肪という「力を発揮しないデッドウェイト(死重)」を極限まで削ぎ落とし、純粋な筋肉だけを残し、さらに前述した「神経系の適応」を極限まで高めて、体重を増やさずに出力だけを上げるという非常にシビアな身体作りが求められます。

  • 相対筋力の計算式:挙上重量 ÷ 体重 = 相対筋力スコア
  • 体重60kgでベンチプレス120kgを挙げる人(スコア2.0)は、体重100kgで150kgを挙げる人(スコア1.5)よりも相対筋力は圧倒的に高い。
  • 「動ける身体」を目指すボディメイカーは、常にこの相対筋力を高めることを目標にすべきである。

03アロメトリー・スケーリング(体重と筋力の非線形法則)

ここで一つ、生体力学における重要な法則「アロメトリー・スケーリング(Allometric Scaling)」を紹介します。これは、体重が増えれば増えるほど、絶対筋力は伸びるが、相対筋力は必然的に低下していくという残酷な物理法則です。

筋肉の力は「断面積(2乗)」に比例しますが、体重は「体積(3乗)」に比例して増加します。つまり、身長が高く身体が大きくなるほど、体重の増加スピードに対して筋力の増加スピードが追いつかなくなるのです。

アリが自分の体重の数十倍のものを持ち上げられるのに、ゾウは自分の体重と同じ重さすら持ち上げられないのはこの法則によります。人間においても、軽量級の選手の方が体重比での世界記録(相対筋力)が高いのは、決してヘビー級の選手の努力が足りないわけではなく、物理法則による必然なのです。

目的の混同による失敗

「細マッチョで身軽に動ける身体になりたい(相対筋力重視)」と言いながら、「ベンチプレス150kgを絶対に挙げたい(絶対筋力重視)」という目標を同時に追い求めると、必ずどこかで矛盾が生じます。自分の骨格や才能、そして本当になりたい理想の身体を明確にし、どちらの筋力を優先すべきかを選択することが重要です。

まとめ

絶対筋力と相対筋力、どちらが優れているというわけではありません。これらは車に例えるなら「最高時速」と「燃費・加速性能」のようなものです。自分のライフスタイルやスポーツ競技において、本当に必要とされている「強さ」のベクトルを見極め、迷いのないトレーニングプランを構築しましょう。