パフォーマンスを低下させるオーバートレーニング症候群の兆候と、暑熱・高地などの特殊な環境下で身体に起こる生理学的な変化について。
トレーニングの負荷(ストレス)に対して十分な休養と栄養が伴わない状態が慢性的に続くと、パフォーマンスは向上するどころか著しく低下してしまいます。この状態を「オーバートレーニング症候群」と呼びます。単なる「疲労」とは異なり、内分泌系や自律神経系に深刻な異常をきたした状態であり、完全に回復するまでに数ヶ月から数年を要することもあります。主な兆候としては、パフォーマンスの低下、安静時心拍数や血圧の上昇(交感神経の過緊張による)、睡眠障害、食欲の減退、モチベーションの喪失、そして風邪などの感染症への罹りやすさ(免疫力の低下)などが挙げられます。これを防ぐためには、定期的なディロード(負荷を落とす週)の導入や、日々のモニタリングが不可欠です。
重要な試合(ターゲットマッチ)に向けて、蓄積した疲労を抜きつつ、獲得したフィットネス(体力)を維持して最高の状態を作り出す手法を「テーパリング(Tapering)」と呼びます。テーパリングの期間中(通常1〜3週間)は、トレーニングの「強度(重さやスピード)」は維持するか僅かに高めながら、「ボリューム(セット数や走行距離)」を大幅(50〜70%)に削減します。強度を落とさずに量を減らすことで、筋肉や神経系の鋭さを保ったまま、オーバートレーニングのリスクを排除し、筋グリコーゲンの完全な回復と筋修復を完了させることができます。
暑い環境での運動は、身体に二重の負担を強います。筋肉に酸素を送るために血液が必要な一方で、上がった体温を下げるために皮膚の表面にも大量の血液を送って放熱(発汗)しなければなりません(心血管系の負担増)。大量に汗をかいて体内の水分が失われると(脱水)、血液のドロドロ化による血流低下と、汗をかけなくなることによる急激な体温上昇(熱中症)のリスクが高まります。体重のわずか2%の水分が失われただけで、有酸素性パフォーマンスは明確に低下し始めます。運動前、運動中、運動後の計画的な水分(および電解質)補給が、パフォーマンス維持と安全確保の絶対条件となります。
標高2000mを超えるような高地では、空気中の酸素濃度(気圧)が低いため、平地と同じように呼吸をしても血液中に十分な酸素を取り込むことができません。この低酸素ストレスに身体が適応しようとすると、腎臓から「エリスロポエチン(EPO)」というホルモンが分泌され、骨髄での赤血球の産生が活発になります。赤血球(ヘモグロビン)が増加することで血液の酸素運搬能力が高まり、平地に下りてきた時の有酸素性パフォーマンスが向上します。近年では、「Living High, Training Low(高地で生活し、トレーニングは平地で行う)」というアプローチが、睡眠の質を落とさずに高地適応のメリットを得る手法として主流となっています。
Q. 重要な試合に向けて、獲得した体力を維持しながら蓄積した疲労を抜き、最高の状態(ピーキング)を作るために、トレーニングの強度を保ちつつ「量(ボリューム)」を減らす手法を何と呼ぶでしょうか?
A. テーパリング
解説: 疲労を抜くために完全に休む(あるいは強度を下げる)と、フィットネスレベルも落ちてしまいます。テーパリングの極意は「強度は高く維持し、量を大きく減らす」ことです。