激しいトレーニングの後、呼吸が荒い状態が続くのはなぜでしょうか。EPOCのメカニズムと、ウエイトトレーニングが脂肪燃焼に与えるボーナス効果を解説します。
私たちが急に走り出したり、重いバーベルを持ち上げたりするとき、身体は瞬時に大量のエネルギー(ATP)を必要とします。しかし、有酸素系システムは複雑な化学反応を伴うため、エンジンがかかって十分なATPを作り出せるようになるまでに数分間のタイムラグがあります。この立ち上がりの遅れをカバーするために、私たちの身体は酸素を必要としない「無酸素系(ATP-CP系と解糖系)」をフル回転させてエネルギーを前借りします。このように、運動の初期段階で有酸素系だけで供給できなかった酸素(エネルギー)の不足分を「酸素借(さんそしゃく:Oxygen Deficit)」と呼びます。
運動をパッとやめて安静状態に戻ったとしても、心臓はバクバクと脈打ち、呼吸はしばらく荒い状態が続きます。これは、運動中に「前借り」したエネルギーを返済し、身体を元の安定した状態(ホメオスタシス)に戻すために、細胞が引き続き通常以上の酸素を消費して代謝的作業を行っているためです。この運動後に安静時レベルを超えて消費される酸素量のことを「EPOC(Excess Post-exercise Oxygen Consumption:運動後過剰酸素消費量)」と呼び、かつては「酸素負債」と呼ばれていました。EPOCの間に体内では、枯渇したATPとクレアチンリン酸の再合成、蓄積した乳酸の代謝・除去、上昇した体温の冷却、心拍数や呼吸数を維持するためのエネルギー、そして損傷した筋組織の修復など、様々な重要なリカバリー作業が有酸素性のエネルギーを使って行われています。
EPOCの大きさ(消費されるカロリー)と持続時間は、運動の「時間」よりも「強度」に強く依存することが分かっています。低強度のウォーキングや軽いジョギングでは、EPOCは小さく、運動後数十分で元に戻ってしまいます。しかし、高重量を扱うレジスタンストレーニングや、全速力ダッシュと短い休息を繰り返すHIIT(高強度インターバルトレーニング)のような「極めて強度の高い無酸素性運動」を行うと、身体の内部環境が大きく乱されるため、リカバリーに膨大なエネルギーが必要となります。その結果、運動を終えてシャワーを浴び、家に帰ってソファでくつろいでいる間も、EPOCによるカロリー消費効果が「数時間から数十時間」にわたって高く持続することになります。
このEPOCによる運動後のカロリー消費の持続は、フィットネス業界ではよく「アフターバーン効果」と呼ばれています。そして重要なことに、EPOC中のエネルギー源としては主に「脂肪」が優先的に使われます。つまり、30分のキツいウエイトトレーニングの最中に燃える脂肪はわずかかもしれませんが、その後の24時間でEPOCによって燃え続ける脂肪の総量は、1時間の軽いジョギングを上回る可能性があります。これが、ダイエットや減量(体脂肪減少)を目的とするクライアントに対して、長時間の有酸素運動だけでなく、高強度のレジスタンストレーニングをプログラムに必ず組み込むべき最大の生理学的理由の一つなのです。
Q. 激しい運動の後、安静状態に戻っているにもかかわらず、身体の修復やエネルギー再合成のために通常以上の酸素(カロリー)が消費され続ける現象を何と呼ぶでしょうか?
A. EPOC(運動後過剰酸素消費量)
解説: かつては酸素負債と呼ばれていたEPOCは、強度が高い運動(ウエイトトレやHIITなど)ほど大きく長く持続し、運動後も脂肪が優先的に燃え続ける「アフターバーン効果」をもたらします。