STRENGTH ARTS
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運動生理学

有酸素性代謝と心血管系の適応

長時間の運動を支える有酸素系システム。心臓や血管、呼吸器系がトレーニングによってどのように適応し、持久力が向上するのかを解説します。

1. 有酸素系(酸化系):無限のエネルギーファクトリー

ATP-CP系や解糖系といった無酸素性のシステムは、素早く大きなエネルギーを生み出せますが、数秒〜数分で限界を迎えてしまいます。それ以上の長時間の運動(マラソンや自転車競技など)や、安静時の生命維持を支えているのが「有酸素系(酸化系)」です。有酸素系は、細胞内のエネルギー工場である「ミトコンドリア」の中で、呼吸によって取り込んだ「酸素」を使って稼働します。糖質(ピルビン酸)や脂質(遊離脂肪酸)を完全に分解し、最終的に二酸化炭素と水にしながら、極めて大量のATPを産生します。化学反応のプロセスが複雑なため、エネルギー供給の立ち上がりは遅く出力(パワー)は小さいですが、燃料となる脂質が体内には豊富にあるため、酸素が供給され続ける限りほぼ無限にエネルギーを生み出し続けることができるシステムです。

2. 心臓の適応:スポーツ心臓と1回拍出量の増加

有酸素系を強力に稼働させるためには、筋肉のミトコンドリアへ酸素を大量に届けなければなりません。そのため、有酸素性トレーニング(持久力トレーニング)を継続すると、心臓や血管といった運搬システムに劇的な適応(変化)が起こります。最も顕著なのが「心臓の肥大」です。特に全身へ血液を送り出すポンプである「左心室」の内腔が広がり、壁が厚くなります(これを「スポーツ心臓」と呼びます)。これにより、心臓が1回のドクンという拍動で送り出せる血液量(1回拍出量:Stroke Volume)が大きく増加します。身体が安静時に必要とする血液の総量(心拍出量)は変わらないため、1回に送り出せる量が増えれば、心臓が打つ回数は少なくて済みます。一流のマラソン選手の安静時心拍数が1分間に40回台など非常に少ないのは、心臓が極めて効率の良い強力なポンプへと適応した結果なのです。

3. 筋肉の適応:毛細血管とミトコンドリアの増殖

酸素を運ぶポンプ(心臓)が強化されるだけでなく、酸素を受け取る側である「筋肉」の内部構造も有酸素トレーニングによって大きく変化します。まず、筋線維を取り囲む「毛細血管の密度」が増加します。これにより、血液から筋肉の細胞内への酸素の受け渡しがよりスムーズかつ大量に行えるようになります。さらに、細胞内で実際に酸素を使ってATPを作る工場である「ミトコンドリア」の数が増え、サイズも大きくなります。また、エネルギーを作り出すための有酸素性酵素の活性も高まり、さらには脂肪を分解してエネルギーに変える能力が飛躍的に向上します。これにより、同じペースで走っていても、限りある「糖(グリコーゲン)」を節約しながら、無尽蔵にある「脂肪」を優先的に燃やしてエネルギーを得ることができるようになり、持久力が劇的に高まるのです。

4. 最大酸素摂取量(VO2max)と乳酸閾値(LT)

これらの心血管系・筋系の総合的な「有酸素性能力の限界値」を示す世界共通の指標が「最大酸素摂取量(VO2max)」です。VO2maxは「1分間に体重1kgあたり、最大何ミリリットルの酸素を取り込んで消費できるか」を表し、この数値が高いほど持久力のポテンシャルが高いことを意味します。しかし、実際のレースでのパフォーマンスをより正確に決定づけるのは「乳酸閾値(LT:Lactate Threshold)」です。運動の強度(ペース)を上げていくと、有酸素系だけではエネルギー供給が追いつかなくなり、解糖系の割合が増え、あるポイントから血中の乳酸濃度(および水素イオン)が急激に上昇し始めます。この分岐点がLTです。優秀な持久系アスリートは、VO2maxの限界に近い非常に高いスピードでも乳酸を溜めずに(有酸素系だけで)走り続けることができるため、このLTを右側(高いスピード域)へ引き上げるLTトレーニングが極めて重要になります。

理解度チェック:例題

Q. 有酸素性トレーニングを積むことで、全身に血液を送り出す心臓の「1回拍出量」が増加した結果、安静時の身体にはどのような変化が現れるでしょうか?

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A. 安静時心拍数が低下する

解説: 心臓が1回で多くの血液を送り出せる強力なポンプ(スポーツ心臓)になるため、少ない回数の拍動で全身に必要な血液を賄えるようになり、安静時の心拍数は低下します。