関節にかかる負荷の正体は「トルク(回転力)」です。てこの原理を理解し、種目ごとの最も負荷のかかるポイント(スティッキングポイント)を見極めます。
私たちがバーベルを持ち上げたり、走ったりするとき、筋肉が「直線的」に縮む力だけでは身体は動かせません。筋肉の両端は骨(関節をまたいで)に付着しており、筋肉が縮むことで関節を「支点」とした「回転運動」が生じます。この回転運動を生み出す力のことを、バイオメカニクス(生体力学)では「トルク(回転力)」と呼びます。筋肉が発揮する直線的な張力と、それが関節にもたらすトルクは明確に区別して理解する必要があります。同じ重さのダンベルを持っていても、関節の角度によって「筋肉にかかるキツさ」が変わるのは、このトルクが変化しているからです。
関節(支点)にどれだけのトルク(負荷)がかかるかは、「トルク = 力(重量) × モーメントアーム」という公式で計算されます。「力」とはダンベルやバーベルの重力(地球の中心に向かって真下に働く力)のことです。「モーメントアーム」とは、関節の中心(支点)から、その重力のライン(作用線)までの「最短の垂直距離」を指します。つまり、重りの重量が同じでも、関節から重りまでの水平距離(モーメントアーム)が長くなればなるほど、関節にかかるトルク(負荷)は掛け算で大きくなります。フロントレイズで腕をまっすぐ前に伸ばした時(床と平行になった時)が一番キツいのは、肩関節からのモーメントアームが最大になるからです。
トルクの概念は、「外からの負荷(バーベル)」だけでなく「内からの力(筋肉)」にも当てはまります。筋肉が骨を引っ張る作用線から関節中心までの距離を「筋アーム(筋肉のモーメントアーム)」と呼びます。外部からのトルク(負荷)に対抗して関節を動かすためには、筋肉も強いトルクを発生させなければなりません(筋トルク = 筋張力 × 筋アーム)。筋アームの長さも関節の角度によって変化するため、人間が発揮できる筋力は関節角度によって強くなったり弱くなったりします(筋力曲線)。
多くのレジスタンストレーニング種目において、挙上動作の途中で「最も動作が遅くなり、挙げられなくなりそうなポイント」が存在します。これを「スティッキングポイント」と呼びます。スティッキングポイントは、バーベルによる外部トルク(モーメントアーム)が最大になるポイントと、筋肉側の発揮トルクが弱くなるポイントが重なった時に発生します。例えばバイセプスカールでは、肘が約90度に曲がり前腕が床と平行になった時に、ダンベルのモーメントアームが最大化し、最も強い負荷がかかります。CSCSは種目ごとのこのポイントを正確に見極め、補助(スポット)のタイミングや、バンド・チェーンを用いた可変抵抗トレーニング(VRT)をプログラムに組み込む必要があります。
Q. 関節の回転軸(支点)から、負荷の作用線(力の働く方向)に対して引いた「最短の垂直距離」のことを何と呼ぶでしょうか?
A. モーメントアーム
解説: モーメントアームが長いほど、関節にかかる回転力(トルク)は大きくなります。デッドリフトでバーが体から離れると腰を痛めやすいのは、腰椎の支点からバーまでのモーメントアームが長くなり、腰へのトルクが激増するからです。