STRENGTH ARTS
Academyトップに戻る
解剖学

筋収縮のメカニズム:滑り説

筋肉が「縮む」とき、ミクロの世界では何が起きているのでしょうか。筋収縮の基本原理である「滑り説(スライディングフィラメント理論)」を解説します。

1. 筋肉のミクロ構造:サルコメアとフィラメント

筋肉(骨格筋)を顕微鏡で拡大していくと、筋束、筋線維(筋細胞)と細かくなり、筋線維の中には「筋原線維」と呼ばれる細い糸のような構造がぎっしりと詰まっています。この筋原線維をさらに細かく見ると、Z線(ゼットせん)と呼ばれる仕切りによって区切られた小さなブロックが直列に連なっています。このZ線とZ線の間の一区画を「筋節(サルコメア)」と呼び、これが筋肉が収縮するための最小の機能単位です。サルコメアの内部には、太い「ミオシンフィラメント」と、それに重なり合うように配置された細い「アクチンフィラメント」という2種類のタンパク質の束が規則正しく並んでいます。顕微鏡で骨格筋を見たときに横じま模様(横紋)が見えるのは、この2つのフィラメントの重なり具合によるものです。

2. 滑り説(Sliding Filament Theory)の基本原理

「筋肉が縮む」という現象がどのように起きているのかを説明する現在最も有力な理論が「滑り説(スライディングフィラメント理論)」です。昔は、筋肉を構成するタンパク質の糸(フィラメント)そのものがゴムのように縮むと考えられていました。しかし実際には、ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントそのものの長さは一切変わりません。収縮の際、太いミオシンフィラメントから突き出た「ミオシンヘッド(頭部)」が、細いアクチンフィラメントを掴み、ボートを漕ぐようにしてサルコメアの中心に向かってたぐり寄せます。これにより、フィラメント同士が互いの隙間に「滑り込む」ように重なり合い、結果としてサルコメア全体が短くなり、筋肉全体の収縮が引き起こされるのです。

3. 筋収縮のスイッチ:カルシウムイオンの役割

筋肉は勝手に収縮するわけではありません。安静時、アクチンフィラメントの結合部位は「トロポミオシン」という別のタンパク質によってブロックされており、ミオシンヘッドが結合できないようになっています。脳からの運動指令(活動電位)が運動神経を通って筋線維の表面に到達すると、その信号は筋線維内部の「筋小胞体」へと伝わります。すると、筋小胞体に蓄えられていた「カルシウムイオン」が一斉に放出されます。このカルシウムイオンがアクチン上の「トロポニン」というタンパク質に結合すると、トロポミオシンの位置がずれ、ブロックされていた結合部位が露出します。これが筋収縮の「スイッチ」となり、待機していたミオシンヘッドがアクチンに結合(クロスブリッジの形成)できるようになるのです。

4. エネルギーの源:ATPの働きと筋肉の弛緩

ミオシンヘッドがアクチンを掴んで首を振り(パワーストローク)、筋肉を収縮させるためにはエネルギーが必要です。このエネルギー源となるのが「ATP(アデノシン三リン酸)」です。ミオシンヘッドがATPを分解することでエネルギーを得て力強く首を振ります。興味深いことに、筋肉が収縮を終えて「弛緩(リラックス)」するためにも、新たなATPが必要になります。新しいATPがミオシンヘッドに結合することで、初めてアクチンから離れる(結合を解除する)ことができるのです。死後に筋肉が硬直する「死後硬直」は、体内のATPが枯渇し、ミオシンがアクチンから離れられなくなったために起こる現象です。運動が終わると、カルシウムイオンは再びエネルギーを使って筋小胞体へと回収され、筋肉は元の長さに戻ります。

理解度チェック:例題

Q. 滑り説において、筋収縮の「スイッチ」となるイオンであり、筋小胞体から放出されてトロポニンと結合するものは何でしょうか?

▶ 答えと解説を見る

A. カルシウムイオン

解説: カルシウムイオンがトロポニンに結合することで、アクチンの結合部位が露出し、ミオシンヘッドが結合できるようになります。そしてミオシンヘッドが動くためにはATPのエネルギーが必要です。

ここから先は会員限定です

STRENGTH ARTSの全講義コンテンツやトレーニング記録アプリを利用するには、無料の会員登録が必要です。